磯原温泉発祥の地 北茨城市 としまや月浜の湯
国道6号線を北に向かって走ると、海岸沿いを常磐線と並走する区間がある。北茨城市の磯原地区。
その辺りにあるのが、今回のお宿「としまや月浜の湯」
としまやから国道6号線をはさんで向かいには、童謡の作詞家として有名な野口雨情の生家が今も残る。
今回はとしまやの専務取締役 渡辺功記(わたなべこうき)さん、営業部部長 渡辺寛史(わたなべひろし)さんご兄弟にお話を伺った。
幕末の旅籠屋から始まった歴史あるお宿
ーご自身の自己紹介をお願いします。
渡辺功記専務)としまや月浜の湯 専務取締役をしております渡辺功記と申します。
ーよろしくお願いします。としまやさんの創業の歴史について伺えますか?
当館は今年で114年を迎える旅館です。元々は旅籠屋から始まった旅館です。時代の流れに合わせて雑貨屋などをやっていたこともあったようです。
現在の当館の建物は、1999年に建築した建物になります。リニューアルに合わせて、旅館の名前を「としまや 月浜の湯」と新しくなりました。お風呂や客室から、目の前には太平洋の大海原が、夜にはお月さまが見えることから、お湯につかってゆっくりとしていただきたいという思いがあります。また、としまやが昔から私共の屋号でございますので、としまやの名前を守りながら、新たなスタートということでこの名前で営業しております。
当館は磯原温泉発祥の地と言われていて、昭和6年にこの地で噴出しました。海岸沿いの温泉としては珍しい硫黄泉なんです。一般的に硫黄泉というと山の温泉というイメージが強いと思います。しかし、磯原温泉は海辺で硫黄の含まれた温泉で、全国を見ても本当にないのではないかなと思います。
温泉を掘り当てたのは私の曽祖父でして、曽祖父は童謡作詞家の野口雨情さんと竹馬の友だったそうです。雨情さんの生家も道路挟んで向かいですし、本当に仲良くしていたんだそうです。温泉が湧き出たことを野口雨情さんが描いた唄「磯原小唄」という唄が残っています。
磯原小唄(一部抜粋) 作詞:野口雨情
わたしや心は 火よりもあつい
来れば来るほど温泉の
湯ではなけれど 冷めやせぬ
健康を一番に考え休業。居心地の良い空間創りに精を出した
ー新型ウイルス感染症拡大で営業面ではどんな影響がありましたでしょうか。
緊急事態宣言が出たときに、営業を継続するかどうかということは本当に悩みました。結果的には4月4日から6月11日まで完全に休業をしました。
お客さんが完全にゼロになってしまったわけですが、何よりもこの北茨城の地で、旅館としてスタッフも大勢働いてくれています。そのスタッフの健康と感染者を出さないということが一番大事だと思ったんですね。そういったことも守って行かなければいけないなと。
様々な条件を考えていく中で、最終的には休業するしかないという決断に至りました。
ー2ヶ月もの休業は本当に大変だったと思いますが、その間に何か取り組んだことはありましたか。
そうですね、2ヶ月以上休業することはこれまでありませんでした。普段、営業をしていると取りかかれないようなこと、改善点や課題を解消できるようなことをやっていました。
どんなふうにしたら、営業を再開したときにお客様がまた快適にご利用いただけるのか、としまやに来て良かったなと思えるのか、ということを考えて館内の雰囲気づくりや庭の手入れなどをしていました。父である社長と私で、山に行って木を採ってきて、庭に穴掘って植えたり、なんてこともしてました(笑)
あとここで働いてくれているスタッフのみんなが、快適に仕事ができるような環境づくりといったことも、この休業期間中に取り組みました。
ー営業再開をされた後のお客様の反応はいかがでしょうか
ありがたいことに休業期間中からも、リピーターのお客様から激励の言葉をいただいたりしていました。まずは我々のことを気にかけてくださるお客様がいらしたときに気持ちよくつかっていただけるように、運営面、スタッフ教育とに力を入れて行きたいと思っています。また、初めていらっしゃるお客様にも「来て良かった」と感じてもらえる様な雰囲気づくりをしていきたいですね。
実は、私個人として、営業再開してからいろんな葛藤があるんですね。旅館として、お客様を笑顔でお出迎えしたい、寄り添う様にお話をしたり接客をしたい。という思いがありますが、感染対策のガイドラインに沿う様にすると、マスクをしなければならなかったり、フロントや土産物売り場にはスクリーンを設置したり、お客様のお荷物を運ぶのも手袋を着用するなど、旅館としての普通のことができないジレンマというのがあるんです。
こういったことはやらなければならないことではあるんですが、お客様は非日常であったり、心の癒しを求めて来るワケですから…。お客様にマスクをとって笑顔を見せることもできない、そういったモヤモヤとした思いがあるんですよね。。
こういった状況の中で、コロナ以前の様な状況に戻るのはいつになるのかわからない不安、というのはありますよね。
でもこんな状況の中でも、お客様に支持していただける様な接客やお料理などに力を入れて行って、私共の笑顔を直接見せられない分、心と気持ちの面でお客様にお伝えできる様にしていきたいと思います。
北茨城 磯原温泉発祥のお宿 自慢のお湯
ー磯原温泉発祥の地、としまやさんの自慢の温泉はどんな温泉なんでしょうか
前述の通り、泉質は硫黄泉でして、海辺ではとても珍しいんですね。お湯は入ってみるとぬるっとした感じのお湯で、美肌の湯とも言われております。温泉から出てもポカポカと温かく、保湿効果もとても高いんです。湯上りにはたまご肌の様なツルッとした肌触りになりますよ。お客様の中には「1歳も2歳も若返ったような気がする!」とおっしゃって頂いたりもします。
お風呂の扉を開けた瞬間に、フワッと温泉らしい硫黄の香りがして、お風呂の気分も雰囲気もよく、カラダも温まって、美肌になってという。本当に一石二鳥、いや一石三鳥かそれ以上のご利益があるお湯じゃないかなと思います。
ーいいですね、ゆっくりと入ってみたいですね。ではそのお湯を楽しめるお風呂はどんなお風呂がありますか
当館には、露天風呂付きの大浴場と2つの貸し切り風呂がございます。
大浴場からは大きな窓がありまして、目の前には太平洋の大海原をみることができます。夕方の時間帯には、磯原海岸と阿武隈山脈の間に落ちていく夕陽もまた綺麗なんです。海と夕陽を一緒に眺められる場所というお風呂になっております。
また貸し切り風呂は2つありまして、汐音に耳を傾けて、海風に当たりながらお湯に浸かる。そんな風情を楽しんでいただく様なお風呂になっております。そのためにこちらの貸し切り風呂は、洗い場やシャワーといった設備は設置していないんです。
貸し切り露天風呂は「海月の湯(かいげつのゆ)」と「天妃の湯(てんぴのゆ)」があります。
「海月の湯」は円形のお風呂でして、少々小さめの湯船なんですね。ですので、ご夫婦であったり、カップルの方などに最適なお風呂ですね。海月の湯の方が海の眺望が良いので、夕方の夕焼けどきなどは雰囲気もいいので非常にオススメです。
また「天妃の湯」は「海月の湯」に比べて湯船が大きいので4名くらいでも十分楽しめるお風呂になっています。こちらから見える海は勿論のこと、波の音や夜には月明かりなど是非そういったところを楽しんでいただければと思います。
としまや自慢のお料理や客室は
ーここからは、としまやさんの自慢のお料理や客室について伺いたいと思います。
はい、営業部部長の渡辺寛史(わたなべひろし)と申します。よろしくお願いします。
自分は、営業部と言っても小さな旅館ですので、他のスタッフと一緒になってお客様対応や接客業務なども行います。また、人材開発の面も任されてまして、採用やスタッフ教育なども担当しています。
ー早速ですが、まず驚いたのが入り口から別世界に来た様な雰囲気で、お庭がとても印象的ですよね
としまやの玄関を入ってからは、建物の入り口までは外の世界が見えない様になっているんですね。
その理由は2つありまして、1つは旅館に来たという非日常を演出することです。玄関を入ったところから素敵なお庭、旅館だなと思っていただける様にということですね。玄関からフロントまで少し長めに距離をとっているのもその非日常の感覚をじっくりと味わっていただきたいという思いがあるからですね。
もう1つは、旅館に関係のない方、変な方が入ってこない様に、という意味もありますね。やはり旅館は休まる場所ですから、ご宿泊のお客様の安全も考えて、敢えてこういったつくりになっています。
ーレストランもあって、もちろん宿泊のお客さんにも食事を出すと思いますが、食事へのこだわりはありますか。
食事では茨城の美味しい食材をお客様に召し上がっていただきたいと考えています。ですので地産地消にとても力を入れています。
特にお米は地元農家さんと直接契約して、本当に美味しいお米だけを仕入れております。また炊き方も大きなかまで炊いているのでふっくらとした、非常に食べ応えのあるお米に仕上げています。
また海産物についても、社長が自ら市場に買い付けにいきまして、目利きをした魚を仕入れております。一匹ずつしっかりと表情や身のノリをみて買い付けをしています。お野菜に関しても茨城はとても農産物が豊かな土地ですので、地元の新鮮な野菜を使う様にしております。
さらにイチオシは地元ブランド和牛の常陸牛をつかったお料理も大変人気です。現在はご宿泊のお客様には常陸牛の石焼きをご提供しております。味わいはとても滑らかでトロッとしていてお肉の美味しさを堪能できます。お客様の中にはおかわりで追加注文を頂いたり、常陸牛のステーキもご用意がありますので、仲間同士で取り分けて召し上がって頂いたりと、常陸牛は人気のお料理ですね。
新型ウイルスのことで、常陸牛の生産農家さんはもちろん、その他の農家さんや漁師さんも大変な状況にあるんです。我々がそういったことも合わせてお伝えしながら、お料理を提供することで地域全体に活気が出てくるといいなと思っていますね。
茨城全体が活気づいて、人々が憩う場所にしていきたい
ー最後にお二人のこれからの夢や目標を伺えますか。
寛史さん)自分の夢は、我々だけでなく茨城県全体が活気付くことです。もちろんお客様にいらして頂いて活気付くのはもちろんです。しかしながら、お客様が口にする食材や訪れて楽しむ観光地など、そういったところに活気があれば必然的にお客様はいらしていただけるものだと考えています。
そうなるために、我々としてできることを一つ一つ念頭において、自分だけでなくスタッフと共に仕事に励んでいきたいと思います。
功記さん)私の夢っていっぱいあるんですよね。1つだけいうとすれば、やっぱり旅館としての最も原点の部分がいちばんの夢なのかなと思うんですね。それは人であふれて、賑やかに。磯原温泉はまだまだ全国的に見れば知名度は低いですからね。いらして頂いてお湯につかったお客様がまた来て頂いたり、お友達と仲間同士でまた来て頂いたり。
かしこまった旅館というよりは、馴染みのお客さんたちが集まって、和気あいあいと憩えるようなそんな旅館にしていきたいなと思います。
北茨城市磯原の笑顔溢れる安らぐ空間のあるお宿 としまや月浜の湯
としまやさんは今回の新型ウイルスだけでなく、3.11東日本大震災でも津波の被害を受け、1階部分が海に沈んだことも伺った。専務の功記さんは間一髪で津波から逃れたそうだ。
東日本大震災以前は堤防が低く今よりも、浜に降りて磯遊びができる様な海岸で今よりも良く海がみえる様な場所だったが、堤防が高くなり少々風景は変わってしまって残念だと話していた。
そんな苦難を乗り越え、今も時代の渦の中、力強く歩みを止めない姿に感銘を受けました。功記さんも寛史さんもとても気さくで朗らか。笑顔が絶えないインタビューでした。
これからも変わらず美味しいお料理とちょっと違った非日常の安らぐひとときを、多くの方に届けてくれるでしょう。
店舗・アクセス
としまや 月浜の湯
住所:茨城県北茨城市磯原町磯原200-3
TEL:0293-43-1311
公式サイト:としまや月浜の湯公式サイト