良質な素材を使ったお酒で最高を届ける酒蔵 茨城県大洗町 月の井酒造店

茨城県東茨城郡大洗町 創業155年の酒蔵 月の井酒造店

茨城県内でも有数の観光地である大洗町。全国的にも有名な水族館 アクアワールド大洗、アニメの舞台となっていて聖地巡礼などなど。

この大洗町でこだわりの酒造りをしている「月の井酒造店」。

一般的にお酒造りは冬の寒い時期に仕込む。取材当日は月の井自慢の日本酒で漬け込む梅酒の仕込みを取材させていただいた。

今回8代目蔵元、株式会社月の井酒造店 専務取締役の坂本直彦(さかもとなおひこ)さんに、またお酒造りや梅酒の仕込みについては製造部部長の山田博(やまだひろし)さんにお話を伺った。

徹底的に「良いもの」にこだわったお酒造り

ーご自身の自己紹介をお願いします。

株式会社月の井酒造店で専務取締役をつとめております、坂本直彦(さかもとなおひこ)と申します。自分が八代目蔵元です。母が社長を務めており、社長が七代目、自分が八代目という事でさせてもらってます。お酒の製造、会社の経営を主に任されてやっています。

地元に帰ってきたのは、2014年、6年くらい前ですね。それまで大学卒業してからは食品の商社で働いていました。

ー創業はいつ頃になりますか。

慶応元年、西暦だと1865年ですね。今年で155年になります。

創業者は坂本彦市(さかもとひこいち)という方です。創業時、お酒造りを松前藩、今の北海道から教わって始まったと聞いています。創業当時は、松前藩から名前をいただいて、松前屋の屋号、銘でやっていたそうです。

それから時代が流れて行くにつれて、月の井というブランド、銘を使うようになっていたんです。月の井の名前の由来として2つの由来があります。

まず一つ目は神奈川県にある川崎大師の境内に、月の井という井戸がありまして、お酒を飲む人の健康や厄除けなどを願ってそこから頂いたということです。
二つ目に、古く地元大洗に伝わる民謡に「磯節」という民謡があります。大洗は海が近く、波も荒い海なんですね。金波銀波にうつる月明かりの美しさを謳った民謡があり、その一説から付けたという事です。

月の井の「井」は、井戸の井の意味ですよね。お酒造りというのは「水」がとても大事なんです。お酒の味というのは6割から7割以上がお水で設計されるんですね。水の良し悪しが出来上がるお酒の味わいやイメージを大きく左右するんです。そういったことから水に関係するブランド名になったんですね。

ー今では月の井というブランド・銘以外にもお店に並んでいますよね。

時代が流れて、ずっと月の井という名前でやってきましたが、お酒を造る人間として、変わらない思いもありますが、何か残していきたい。
今では月の井というブランドの他に2つブランドがあります。

1つは私の父、先代の社長と現社長の母が作り上げたブランドの「和の月(なのつき)」があります。和の月は今から15、16年ほど前にリリースしたブランドです。

どうしても仕事柄、お酒を飲む機会が多く、少なからずお酒を飲むことは体に負担がかかりますよね。お酒を飲む人が少しでも健康を気遣って、楽しいお酒にしていただきたいという思いから、有機栽培米を使用したオーガニックの日本酒を開発しました。

日本全国に酒蔵はおよそ1300軒もの酒蔵があるんです。その酒蔵がそれぞれ20とか30とかのアイテム、商品を持っているんですね。そうすると単純に1万種類以上のお酒、商品アイテム数が世の中にあるんです。その中の1つのお酒が「月の井」であったり「和の月」という訳です。

和の月のリリースから10年ほど経って、自分が地元に戻ってきたんですね。その時に考えたのは、世の中にたくさんのお酒、銘柄がある中で、どうやって個性を出して行けば良いかと思ったんです。

「彦市(ひこいち)」

月の井の個性、月の井にしかできない事とは何なのか。過去を振り返れば、これまでこの大洗で酒造りをしていた酒蔵は他に2軒あったんですが、時代の流れとともに廃業して、今となっては月の井だけなんですね。やはりこの大洗という土地でお酒を造っている事こそが、日本のみならず世界で唯一無二の個性であり、特徴になり得るんじゃないかなと。
その答えから、もっと原点回帰をして、大洗の水、土で育ったお米を原料に使って、大洗の水で醸したお酒こそ、究極の地酒なんではないかと考えたんですね。

それから、作り上げたのがこの「彦市(ひこいち)」というブランドです。
最初に言った通り、当社の創業者である坂本彦市の名前をいただいて、ブランド名にしました。

創業者のお名前を頂くということで、やはり原点回帰という意味もありますし、地元で作られた原料のお米、水を使って造るお酒ということで、大洗での酒造りをする我々の背景や歴史、想い、土地の良さと言ったものを盛り込んだ商品造りをしたいということから、このブランドを立ち上げました。

ー現在は月の井、和の月、彦市と3つのブランド展開なんですね。

そうですね。月の井というブランドを軸にしながらも、現在は3つのブランド展開でやっております。

それぞれ大まかなコンセプトの違いはありますが、昔も今も変わらないのは「素材にこだわった酒造り」ということが我々月の井酒造店としてのコンセプトです。

和の月であれば有機米、オーガニックの原料。彦市であれば地元一貫造り。
月の井は元々は日本全国の一級品のブランド米を使った吟醸造りというのがコンセプトでした。

そう言った意味では、全面的に原料にこだわったお酒造り。そして、想いやストーリーのあるお酒造り。というところを基調として、今に至っております。

茨城県内や大洗のうまいものとお酒でお家飲み発信

ー新型ウイルス感染症感染拡大がありましたが、何か影響を受けたことはありましたか。

月の井のお酒を買っていただいていたのは、多くが飲食店さん、レストランのいわゆる業務用の部分が大半だったんです。近隣の大洗、水戸、勝田など茨城県内もちろんですが、東京など首都圏のお店さんですね。また、大洗は県内でも有数の観光地でもありますから、観光客の方が立ち寄る物販のスペース。うちの直売所もそうですし、お土産売り場などです。
それぞれの場所で売れなくなってしまいました。お店さんがそう言った状況であれば、我々の方にもそっくり影響が出てきます。4月、5月は前年よりも大幅に売り上げが落ちてしまいました。

ー対策として活動されたことはありますか?

そんな状況に対して、何かできることはないか。今お付き合いのあるお客さんに対して売れないものを買って下さいって言っても無理ですよね。

視点を変えて、一般のお客さんが、おうちで楽しめるような方策はないかなと考えました。
地元の大洗とか、ちょっと視点を広げて茨城県内の我々のご縁のある生産物や海産物などの食品と、月の井のお酒をセットにして販売することにしました。そうすれば、お客さんも無駄な外出をすることなく、一度にお酒と食品を楽しむことができますよね。

もちろん、ただお酒と食品をセットにするだけではなく、蔵元として「このお酒には、このおつまみ、肴があいますよ」と言ったベストチョイスでご提案してお送りしたら、面白いんのではないかということで商品組みをして作りました。(現在は販売終了しております。)

ーそれはお酒もおつまみも晩酌が楽しくなりそうですね。セット商品の売れ行きはいかがでしたか

はい。おかげさまで、お客様からの反応がとても大きくて、ありがたいことに、トータル150組程度、お客様にお楽しみいただけました。中には、おかわり、ということでリピートでご注文をいただいたお客様もいらっしゃいましたね。最終的には300セット以上ものご注文をいただきました。

やはり、こういう時だからこそ、普段我々とお付き合いのある生産者さんや加工業者さんとの繋がりをカタチにできたこと。「月の井はこう言った方たちと付き合ってますよ。お酒とこういうものを合わせると美味しいんですよ」ということですね。こう言ったことをお客様にお伝えするためには、大変良い機会になったと思います。

ー手応えバッチリと言ったところでしょうか。

手応えとしては、そうですね。

今回、特に首都圏からのご注文が多かった印象でして。ゴールデンウィークとか外出ができない中で、地方に旅行したいというような方にご購入いただいたように感じています。外に出たくてウズウズしてて、でも外には出られない。ならば、お酒と食べ物のセットだけでも行った気分にという感じで。そう言ったお客様によく響いた商品だったんじゃないかなと思いますね。

初夏 月の井自慢の日本酒で漬ける梅酒造りにかける思い

ー梅酒作りについてご説明お願いします。

山田さん)はい、私は製造の責任者をしております、山田博(やまだひろし)と申します。よろしくお願いします。

月の井の梅酒は、三種類の梅酒を作っております。①通常の梅酒、②オーガニックの梅酒、③紅い梅酒「恋梅」という三種類です。

ー使っている梅の実はどんなものを使っているんでしょうか。

一般に青梅と言われる白加賀梅、また南高梅というものを使っております。

また、茨城県阿見町に月の井の自社梅園をがありまして、そちらでも南高梅を生産しております。

オーガニックの梅酒も作っているので、それに使う有機栽培の有機JAS認定を受けた梅を、奈良県の契約農家さんから仕入れて使用しております。

阿見町の自社梅園では、シーズンの一番最初の6月中旬頃に収穫をするのですが、月の井の社員で収穫しに行きました。梅の生育状況とか出来栄えを見ながら収穫するんですが、今年の場合は梅雨に入って2、3日経ったところで収穫してきました。収穫した梅の中から良いものだけを選別して梅酒に使うようにしています。
収穫した梅は蔵に持って帰ってきて、翌日みんなで仕込むという感じですね。

ーなるほど、梅酒作りはどんな工程で作られるんでしょうか。

収穫した梅は、みんなでヘタをとって、水でよく洗浄、一度水気をしっかりと切った上で、漬け込みをします。

そのあとは時間をかけて、来年の4月ごろまでじっくりじっくりと漬け込みます。

ー今は7月ですが来年の4月まで漬けるとは。かなり長期間漬け込みをされるんですね。

そうです。1年弱、10ヶ月ほど漬け込みます。これだけの期間を漬け込むようになったのは昨年の2019年からになります。

というのも、お酒造りのスケジュールが少し昨年から前倒しになりまして、梅とお酒を分離する作業がこれまで通りの時期に出来なくなってしまったんです。
正直なところ、お酒の出来上がり、酒質は心配な部分もあったんです。でも、確かめてみたところ、全く問題がなく、むしろ梅のエキスがしっかりと出ていたので、漬け込みの期間を長く取るようになりました。

ーしっかり漬け込んで出来た梅酒は、すぐにお店に並ぶのでしょうか?

出来上がった梅酒は、しっかり約1年ほど寝かせます。寝かせた方が熟成されて味わいが良くなるんですね。

それも、新しくつけて出来上がった新酒と、その前の年に作った古酒をブレンドして味わいを整えてから寝かせて熟成させます。

毎年安定した味わいにする意味でも、新酒と古酒を適宜ブレンドをしながら、製品化するようにしております。

ー梅酒に使うお酒はどんなお酒を使っていますか。

通常の梅酒には、うちの本醸造というお酒を使用しております。アルコール度数が高めになるように発酵期間を長めにとって作ったお酒ですね。
アルコール度数が高い方が梅のエキスを引き出しやすいので、大体20度弱くらいに仕上げています。

有機の梅酒には、有機栽培のお米を原料にしたお酒を使用しています。

ー梅酒のこだわりポイントはありますか?

うちの梅酒の特徴として、あまり糖類を添加しない梅酒造りがポイントです。通常35度くらいのホワイトリカーに糖類をたくさん入れて作るんですね。その方が素早く梅のエキスを引き出せるメリットがあるからなんですが。月の井の場合、アルコールも低めで、糖類も控えめということで、じっくり漬け込んでエキスを引き出しています。

いちばんのこだわりはやはり、オーガニックの梅酒ですね。これは糖類を一切加えない。オーガニックの梅とお酒だけで造る梅酒になっています。
味わいとして、酸味がしっかりあってかなり酸っぱいんですが、その酸味がむしろ快感になるというか、クセになっちゃう感じです。

糖類を加えないオーガニックの梅酒は全国を見ても、他ではやっていないもので珍しいので、オススメしたい梅酒ですね。

リアルな交流を大切に、蔵を守り継いでいきたい。

ーこれからやっていきたいことや、考えていることはありますか。

坂本さん)ものづくりをしていくことに対して、その思いとかやり方という面では変わらないですし、変えるつもりもないんです。でも今の時代は商品の良さとか内容が、お客様に伝わりにくい状況があると思います。
例年でしたらこの時期、駅のコンコースとか、各所でのイベント、飲食店さんでのお酒の会っていうものが毎週のようにあったんです。我々が造ったお酒をお披露目する機会がたくさんありましたが、今は新型ウイルスの関係で一切無い状況。

この様な状況は今後も継続すると思うので、今まで以上に発信の仕方、商品の見せ方も改めて考え直していかなければいけない。まずは今オンラインを使って、蔵の様子やお酒の説明などを広めていくことが、広告の方法なのかなと。
ただ、個人的にオンラインという方法が好きか、と言われると、どちらかといえば好きではなくて。やはりリアルが良い。

ー最後にお酒作りにかける想いを聞かせてください。

この月の井で自分は生まれ育って、この蔵とか会社とか環境だったり、働いてくれている仲間が大好きなんです。この仕事をやるのが子供の頃からの夢でしたし、酒造りをやることがいちばんの楽しみだと思ってきました。

ですので、今までの人生で、大学選びも東京農大に行って、就職も一度は食品の問屋業で流通の仕組みとかを学びたいと思って就職しました。そういったことも全てが今に至るまでの過程、プロセスだと思っています。この仕事をするために選んできて、楽しみながら生きてきました。

仕事をしていれば、もちろん辛いことはたくさんありますけど、総じて考えてみれば楽しく出来ています。どういったお酒や商品を作ればお客様に喜んでいただけるかを考えながらも、自分たちのブランドのコンセプトを守っていかにお酒造りをしていくか。
お酒造りって、年に一度しか出来ないことですので、毎年試行錯誤しているんです。だからこそ面白いですよね。そこから出来たお酒をどうお客様に届けるか。イベントを考えたり、販売先への提案をしてみたり。自分自身そういったことも楽しみながら出来ていて、いい仕事だなと思ってます。

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確かな技と良質な素材で最高を届ける

今回お話を伺ってみて、常にいいもの。それも最高を追い求めるということへ、とてつもない熱量を感じました。

八代目蔵元の坂本専務さんも、山田製造部長さんも、話ぶりはとても穏やかで優しい印象ですが、その胸の内はお酒造りに対する計り知れない情熱を燃やしているようでした。

坂本専務さんの話の中にもあったように、お酒造りに使う原料には首尾一貫して、厳選した良質な素材を使うことを徹底されていました。

また、実際の商品であるお酒には、全てのラベルにそれぞれのお酒の特徴やストーリーはもちろん、食べ物とのペアリング、飲む人へのメッセージが記されていて。飲む人への思いやりをもひしひしと感じました。

 

店舗・アクセス

株式会社月の井酒造店
住所:茨城県東茨城郡大洗町磯浜638
TEL:029-266-2168
WEB:https://tsukinoi.co.jp/
ECサイト:月の井酒造店Online Shop

月の井酒造店公式サイト

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